現在日本へ進出する台湾の企業が増えている。世界中がコロナ渦で経済が回らなかった2020年でも経済成長を果たした台湾。その理由は台湾の衛生局の対応及びオードリータン氏を中心としたデジタル施策の活用だろう。そんなデジタル先進国とも言える台湾からシリーズBで17億円の資金調達を実施し本格的な日本進出を発表したのが Kdan Mobile である。Kdan Mobile が日本に進出した理由、台湾人から見た日本市場のユニークさ、台湾企業が考える日本市場進出の「本音」について聞いた。
(ライター: 佐藤 / ご協力Kdan Mobile)
目次
日本に進出した理由
近年日本では空前の台湾ブームが起きている。2019年から2020年にかけてはタピオカのブームが起こり、そのブームを後押しするように2019年には誠品書店が日本橋に『誠品生活日本橋』を開店させた。台湾カフェで有名な春水堂も日本進出を果たした。今台湾企業の日本進出が本格化しようとしている。
2021年10月に17億円の資金調達をし、日本への本格進出を発表した台湾発のSaaSスタートアップ「Kdan Mobile」もその一つだ。ローレライ・キョウ氏はそんな日本進出のマーケティングを担当する。
「まず魅力的だったのは1億人以上の人口と弊社サービスのTAM (獲得可能な最大市場規模)の大きさでした。また、日本は SaaS 市場が緩やかに成長しているものの、SaaSの浸透率が低いのも魅力の一つでした。」
ローレライ・キョウ氏とKdan Mobile のチームは様々なリサーチを行い、東京esque が指摘しているように日本のデジタル化の問題の一つが中小企業の労働力減少と手作業で行われているビジネスプロセスであると考えた。
中小企業は、現時点でこうした問題に向き合わずともギリギリやっていけるかもしれないが、そのうち高齢化社会の波が押し寄せデジタルに頼らなければいけなくなる。Kdan Mobile はこれをチャンスと捉えた。
日本市場のユニークさ
しかしチャンスがあっても日本市場進出は決して簡単ではない。日本市場は他の東アジアの市場とかなり異なるという話はよく聞く。例えば日本の中小企業の多くは未だにファックスを使用している。大企業でさえファックスを使う会社は多いと聞く。台湾に住んで6年以上の筆者は「ファックス」という中国語の単語を聞いた事がない。
このように過去の事例や商習慣に固執し、中々変革が起きないのは根回しや協調性を重視した独特な文化が理由とも言える。
日本市場は魅力はあるものの、とても難しいというのが日本市場に進出する台湾企業の共通の認識である。今回改めて、台湾人の視点から日本市場のユニークさを聞いてみた。
「私の先輩や周りから聞いた話だと、日本人の多くは海外ブランドへの信頼が低く、とても慎重と聞きました。そのため、日本市場でやっていけるかどうか判断するには少なくとも3年以上様子を見る必要があると聞いています。また、何をするにも自分達が最初になる事を避ける傾向があるため、まずは日系企業との連携が大事だと考えています。」
例えば Facebook が日本に進出した際、まずは電通と提携を組んだのは有名な話である。
また、ローレライ・キョウ氏が考える日本進出成功のポイントはローカライズである。ローレライ・キョウ氏が語る日本人のユニークなポイントの一つに「印刷文化」がある。プレゼンテーションがある場合、プレゼンの資料を印刷する事は台湾では滅多に見られない。しかし日本では会社員の多くがプレゼン資料を印刷する。
例えばこの文化を知らずに日本に出張した際に資料をプリントアウトしていなければローカライズが不十分と言える。商品やサービスにも同じことが言える。
このように日本の商習慣や考えは同じ東アジアをルーツに持つ台湾人のローレライ・キョウ氏から見てもかなりユニークであり、成功のためには日本に合わせたプロダクトの提供が大事と考えている。
Kdan の日本市場進出戦略
それではKdan は具体的にどのようにして日本市場に本格的に進出しようとしているのか?
「ウェブサイトや資料は当然ローカライズします。そのほか電子サインのサービスは当然印鑑が使えるようにします。PR Times への PR 投稿はもちろん、デジタル広告も行なっています。コロナウイルスの影響もあり展示会への出展は限定的ですが、過去には行なっています。販売代理店を通した販売やコンテンツマーケティングも行なっています。現在考えうる施策を全て試し効果を見ている状況です。」
また、今回Kdan Mobile は韓国のベンチャーキャピタル Dattoz Partners、中国やアジア地域への投資を積極的に行うアメリカのベンチャーキャピタルWI Harper Group、台湾のベンチャーキャピタルそして、日本の三菱UFJキャピタル株式会社と台湾の創新工業技術移転股份有限公司(ITIC)が共同で運営するファンドから出資を受けている。今後は 4カ国の出資者のリソースも最大限活用していく予定だ。
Kdan Mobile と同じく日本進出を考えている台湾企業に敢えてアドバイスをするとしたら
最後に日本に進出をしてすでに1年半経った Kdan Mobile のマーケティングを担当してきたローレライ・キョウ氏に、日本進出に関して台湾企業へ向けてアドバイスはあるか聞いたらとても面白い回答が来たので紹介したい。今後日系企業の中には台湾企業の進出をお手伝いする企業も出てくるであろう。彼女のアドバイスはそんな日系企業のヒントになるかもしれない。
「Facebook の投稿を一言一句しっかり考える事、とにかくディテールまでこだわる事、3年間はいる覚悟で進出することをアドバイスとして挙げます。特に驚いたのが Facebook の投稿です。以前 Facebook の投稿をした際に本当に細かな誤りがあったのですが、それを指摘したユーザーがいました。そんな細かな誤りは台湾であれば誰も指摘しませんが、日本では度々指摘されてびっくりしました。」
そのほかに彼女が日本進出で重要な要素として指摘していたのが「日本」に決定権を持つ人物を置くことだった。コロナ渦でリモートワークが普及して、一見どこからでも他国に進出できる環境が整ったように思う。
しかしローレライ・キョウ氏は物理的に日本に決定権をもつ人がいる事が迅速な決断につながり、成功へ繋がると考えている。実際、Kdan Mobile も日本オフィスで販売支援やカスタマーサービスを行なっており、迅速な決断を下せる体制を整えている。
台湾企業の進出をお手伝いしたい日系企業はまず Kdan Mobile のように日本に進出した企業と接点を持つ事が重要と言える。その一番簡単な方法はまずは進出した企業のユーザー/顧客になる事だろう。
顧客になりサービスを熟知した上で、プロダクトの改善点やプロダクトを日本で一緒に普及させたい意思を示せばチャンスはあるのではないだろうか?
今後日本と台湾の間でそれぞれ進出する企業が増え、互いに刺激しあえる関係になる事を期待したい。
台湾発SaaS企業「Kdan Mobile」が提供するDottedSignドットサイン
日本に満を持して進出した Kdan Mobile が提供する新サービスは電子署名 DottedSign (ドットサイン)である。
筆者は過去に数社の電子署名を使った事があるが、ドットサインが優れていると思う点の一つにユーザー視点に立った、簡単な操作がある。
他社電子署名を使った時に驚いたのが署名用のドキュメントがメールで来て、署名をした後ユーザー登録するには Eレターの登録が必要だった点である。
特に興味はなかったのでスキップをしたら、また新たな電子署名ファイルが来た際、再度署名を登録する必要があった。これにはフラストレーションが溜まった。
また、他社のサービスは署名をする際に署名の大きさをわざわざ調整する必要があった。ドットサインでは特にない。
また、セキュリティ面も優れており、世界最高レベルのAATL認証局と連携しており、世界で最も厳格な法規制要件への準拠に使用する証明書ベースのデジタル ID とタイムスタンプサービスを発行する。
今後台湾の企業とビジネスを始める会社には特におすすめしたい。